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福岡地方裁判所久留米支部 昭和47年(ワ)3号 判決 1973年5月08日

原告

川原四郎助

ほか一名

被告

今村安信

主文

被告らは各自原告川原四郎助に対し金一五二万四、七七七円、原告川原薫に対し金一六九万二、七〇七円、及び右各金額に対する昭和四六年六月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分しその一を原告両名その余を被告両名の各連帯負担とする。

この判決第一項は原告らが連帯して被告両名に対し不可分に金一〇〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

一  申立

(原告ら)

1  被告両名は各自原告川原四郎助に対し金三七五万八、二七三円、原告川原薫に対し金五一六万九、七〇〇円、及び右各金額に対する昭和四六年六月二七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告両名の連帯負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

(被告ら)

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

二  主張

(原告らの請求原因)

1  原告川原四郎助は亡川原スズコの夫、原告川原薫は亡スズコと原告四郎助との間のただ一人の子である。

2  スズコは昭和四六年六月二六日午前八時五〇分頃久留米市東町一三四番地先国道二一〇号線の路上で、道路横断中、被告今村安信の二男である訴外今村豊治の運転する小型貨物自動車に衝突され、脳挫傷、頭部打撲、骨盤骨折、脳浮腫、全身打撲傷等の重傷を負い、そのため同日午後一時三〇分頃同市諏訪野町伊藤外科病院で死亡した。

3  被告今村安信は植木業を営み、本件加害自動車を所有し豊治に同自動車を使用運転することを許容していたものであるから、自賠法三条本文により、本件事故に基因する人身の損害に関し賠償義務を免れない。

4  損害額について。

(一) スズコの逸失稼働利益 六〇八万二、五〇四円。

スズコは四九才の健康体で昭和三三年頃から久留米市内文化服装専攻学校に助手ないし教師として勤務し、事故当時月額四万円の給料を得ていた。そのほか、同校には週休が二日あつてスズコは洋裁仕立を内職とし、死亡前月から遡つて六箇月間内職により平均月収一万七、〇五〇円を挙げていた。

スズコは少くとも六〇才まで一一年間は教師として勤務する傍ら右程度の内職収入を挙げ得た筈であるから、月額合計五万七、〇五〇円の平均収入から社会保険料二、〇八八円を控除し、更にその残額から生活費として三五パーセントにあたる一万九、二三七円を控除した三万五、七二五円の純利益を右期間月々失つたこととなる。

従つて月毎に年五分の割合による中間利息を控除した上これを合算した三七五万一、一二五円がスズコの同期間の逸失利益の事故当時の現価である。

また厚生省第一二回生命表によると四九才の女性の平均余命は二七・七三年であり、スズコは健康体でありその血縁者中に八〇才をこえる者が数名現存していることから考えて、その余命は平均余命を下廻ることはないとみるべきで、洋裁学校教師は健康でさえあれば高齢であることは何ら在職の妨げとならないから、スズコは事故にあわなければ六〇才をこえたのちも洋裁教師としてなお七五才までの一五年間勤務を継続し、引続き給料月額四万円を得ることができた筈というべきである。それゆえ、右一五年間四万円から社会保険料二、〇八八円を控除し残額から更に三五パーセントの生活費一万三、二六九円を差引いた月額二万四、六四三円の純利益が月々失われたこととなるから、各月毎に年五分の割合で中間利息を控除した上これを合算すると、その間の逸失利益の事故当時の現価は二三三万一、三七九円となる。

従つて逸失利益の総額は、六〇才までの一一年分三七五万一、一二五円と、その後七五才までの一五年分二三三万一、三七九円の合計六〇八万二、五〇四円となる。

(二) スズコの逸失年金利益 六三万二、三八四円。

スズコは平均余命に達する七六才まで生存し六五才から七六才まで厚生年金保険法による老齢年金の給付が得られた筈である。

六五才から七五才まで一〇年間に得べかりし年額は、四〇〇円に六五才までの被保険者期間の月数三五五(昭和三三年九月が始期)を乗じたものの八〇パーセント(七五才まで被保険者資格があるものとすれば、その間二〇パーセントの部分が同法四六条一項により支給停止となる。)にあたる一一万三、六〇〇円であるから、各年毎に年五分の中間利息を控除した上これを合算すると、右一〇年間の分の事故当時の現価は五四万九、八二四円となる。

また七五才から七六才までの一年分は、四〇〇円に被保険者期間の月数四八〇を乗じた一九万二、〇〇〇円がその年額であり、年五分の中間利息を控除すると事故当時の現価は八万二、五六〇円となる。

従つて失つた老齢年金の現価合計は六三万二、三八四円である。

(三) スズコの慰藉料 三〇〇万円。

スズコは女性の身でありながら、肺結核で長年月療養生活を送つて来た夫四郎助に代わつて一家の柱となり、原告両名の生活を支えて来たもので、本件事故により精神的肉体的に多大の苦痛を蒙つた。その慰藉料は三〇〇万円が相当である。

(四) 原告両名の慰藉料 各一五〇万円宛。

原告四郎助は妻を、原告薫は母を、本件事故により失つたもので、その悲しみは言葉で言いあらわすことのできないほどに深いものがある。その慰藉料は各一五〇万円が相当である。

なおもしスズコ自身の慰藉料がみとめられないときは、原告四郎助の受くべき慰藉料は二五〇万円、原告薫の受くべき慰藉料は三五〇万円が相当である。

(五) 医療費 六万二、八三八円。

スズコは本件事故により重傷を負い、伊藤外科病院において治療を受けた。その費用は六万二、八三八円であつて、原告四郎助がこれを負担支払つたので、同原告は本件事故により直接同金額の損害を受けた。

(六) 葬儀費 三一万〇、五八五円。

スズコの葬儀のために要した費用は三一万〇、五八五円であつて、原告四郎助がこれを負担支払つたので、同金額も前同様原告四郎助の蒙つた損害にほかならない。

(七) 弁護士費用 八〇万円。

被告今村は以上のような損害賠償義務を負担しながら任意これを履行する誠意がなく、原告らはやむなく本件の訴訟代理人小出吉次弁護士に訴訟の提起追行を委任したもので、その報酬として第一審の結審までに原告四郎助が三〇万円、原告薫が五〇万円を同弁護士に支払うことを約定している。これらの金額は本件事故と相当因果関係に立つ原告らの損害である。

5  原告らはスズコの死亡によりその共同相続人となつたもので、その相続分は原告四郎助が三分の一、原告薫が三分の二である。

従つてスズコに生じた損害(上記(一)、(二)、(三)の合計)九七一万四、八八八円については、相続分に応じ原告四郎助が三二三万八、二九六円、原告薫が六四七万六、五九二円宛の賠償請求権を相続したこととなる。

これに各原告について生じた損害額を加算すると、原告四郎助の分が合計五四一万一、七一九円、原告薫の分が八四七万六、五九二円となる。

原告らは自賠責保険から合計四九六万〇、三三八円を受領したので、これを相続分に応じて按分すると原告四郎助の分が一六五万三、四四六円、原告薫の分が三三〇万六、八九二円であり、これを右各損害額から控除すると、原告四郎助の分が三七五万八、二七三円、原告薫の分が五一六万九、七〇〇円となる。

よつて原告らは被告今村に対し右各金額及びこれに対する本件事故発生の日の翌日から支払ずみまで年五分の法定利率による遅延損害金の支払を求める。

6  被告久留米市農業協同組合は、被告今村安信との間に昭和四六年四月一四日頃本件加害自動車に関し共済金額を一、〇〇〇万円とする自動車損害賠償責任共済契約(契約番号六〇〇〇七号)を締結して居り、本件事故はその契約期間中に発生したものである。

従つて被告組合は被告今村が負担するに至つた損害賠償義務に関して、右共済契約に基き被告今村に対し同額の共済金の支払義務を負うものであつて、おそくとも被告組合が本件事故の発生を確知したといえる本件訴状送達の日ないし第一審の口頭弁論終結の日又は判決言渡の日にはその履行期が到来するものということができる。

よつて原告らは被告協同組合に対し、被告今村に対して原告らの有する損害賠償請求権に基き、被告今村が被告協同組合に対して有する共済金支払請求権を代位行使し、被告今村に対するのと各同一の金額の支払を求める。

(請求原因に対する被告らの答弁と抗弁)

1  請求原因1、2、3の事実は認める。同4のうち(一)、(二)、(五)、(六)、(七)の事実はいずれも不知、(三)、(四)の慰藉料額は争う。同5のうち冒頭の相続関係と原告らがその主張の金額を自賠責保険から受領したとの点は認めるが、その余は争う。同6のうち被告両名の間に原告主張の本件事故に適用せらるべき自動車共済契約が締結されていることは認めるがその余は争う。

2  被告両名間の自動車共済契約によると、被告今村が共済の目的である自動車の事故によつて他人の生命身体又は財物を害したため法律上の損害賠償義務を負担し損失を生じた場合、被告協同組合はこれを填補するため共済金の支払義務を負うこととなるが、右共済金支払義務は損害賠償額が確定したときから一箇月以内に被告今村から被告協同組合に対し支払の請求がなされることによつて発生するものであつて、被告今村が損害賠償義務を負担したというだけで当然に共済金の支払義務が発生するわけではない。のみならず、共済金の額は当然に賠償額と同一であるのでもない。

本件においては共済金支払義務発生の要件である賠償額の確定がなく、被告今村からする支払の請求もないから、被告協同組合として共済金支払義務はないものというべく、従つて被告協同組合に対する原告らの代位請求はその点においてすでに理由がない。

3  本件事故は、交通のひんぱんな国道二一〇号線の広い道路を横断するにあたり、亡川原スズコが横断歩道によらずしかも左右の安全を確認せずに横断しようとした過失にも基因するものであるから、過失相殺がなされなければならない。

4  被告今村は事故直後原告四郎助に対し損害賠償の一部として一三万円の支払をした。

(抗弁に対する原告らの認否)

被告ら主張3のスズコに過失があつたとの点はこれを争う。同4の一三万円の支払の事実は認める。

三 証拠〔略〕

理由

一  亡川原スズコと原告らとの身分及び相続の関係、スズコの死亡の原因となつた本件事故発生の事実、及び同事故に関する被告今村安信の帰責事由たる事実関係については当事者間に争いがない。

二  被告らは、右事故は被害者である川原スズコの過失にも基因すると主張するが、〔証拠略〕によると、訴外弓削哲夫、同岩橋孜はそれぞれ自動車を運転して本件加害自動車と同一方向に、加害自動車に先行して、国道二一〇号線上を走行していたが、本件事故直前その現場附近で先頭中央線寄りを走つていた弓削は、同所附近を横断しようとしていた川原スズコをみとめてその手前で停車し、同人に横断を促す合図を送つたこと、弓削の自動車に追尾して中央線寄りを走つていた岩橋も前車の停車に伴いそのすぐうしろに停車したこと、ところが訴外今村豊治は、先行していた二台の自動車が停車したことから当然前方に横断する歩行者の存在その他交通に危険を生ずるおそれのある事態が生起していることを予想していつでも停車できるていどに減速徐行し危険を未然に防止する注意義務があるのにこれを怠り、先行車が停止したのをさいわいこれを追抜こうとして、前方進路の安全を確認しないまゝ漫然加速して同所を通過しようとした過失により、二台の自動車の停止と弓削の合図とによつて安全に横断できるものと信じ横断を続けた川原スズコに自車を衝突させたものであること、従つてスズコには同箇所を横断しようとしたことについて(同箇所が横断を禁止されていたとか、すぐ近くに横断歩道があつて通常横断する人のない場所であつた、というような証拠はない。)格別過失と目されるような落度はなかつたこと、が肯定される。

右認定に反する部分の今村豊治証人の証言は採用しがたく、他にスズコに過失ありと認めるに足りる資料はない。

三  損害額について。

(一)  スズコが事故当時四九才の健康な婦人で、久留米市内の文化服装専攻学校の教師として勤務し月額四万円の給与を得ていたほか、内職により、月平均一万七、〇五〇円の収入を挙げていたことは、〔証拠略〕によつて明らかである。そうすると、特別の事情のないかぎりスズコは本件事故にあわなければ四九才から六〇才までの一一年間月々右と同額の収入を挙げ得たものというべきで、これから控除すべき生活費その他の経費額に関する原告らの主張には合理性があり相当と認められるから、喪失した月々の純益額三万五、七二五円宛につき年五分の中間利息を控除して合算すると、逸失労働利益の事故当時の現価は原告ら主張のとおり三七五万一、一二五円となることが計算上明らかである。

原告らは、スズコは六〇才から七五才までの一五年間も引き続き洋裁教師として月額四万円の収入を挙げ得た筈だと主張し、証人江田盛義、同江田イトはこれに副う証言をしているけれども、洋裁教師として通勤し授業を行うことは必ずしも軽度の労働ともいゝがたくまた高齢者にとつて洋裁技術の進歩や服飾の流行を十分とりいれることが容易とは考えがたいから、校長その他の管理的業務にたずさわるのではない一般の洋裁教師として勤務することの可能な年齢的限界は平均して六五才ていどにとどまるとみるのが相当で、前記両証言はにわかに採用しがたく、他に右主張を支持するに足りる資料はない。従つてスズコは事故にあわなければ六五才まで引続き前記学校に洋裁教師として勤務し月四万円の収入を挙げ得たものというべく、六〇才から六五才までの五年間に要する月々の生活費その他の費用に関する原告らの主張も前同様相当と認められるから、これを差引いた月々の純益額二万四、六四三円から各月ごとに年五分の割合で中間利息を控除した上合算すると、その事故当時の現価は八八万三、二七四円となることが計算上明らかである。

従つてスズコの逸失稼働利益の額は、六〇才までの分三七五万一、一二五円と、その後五年間の分八八万三、二七四円との合計四六三万四、三九九円で、同金額はスズコの損害にほかならないというべきである。

(二)  スズコが厚生年金保険法の定める被保険者であつて、被保険者となつた時期が昭和三三年九月であることは、〔証拠略〕によつて肯定し得るから、同人は六五才に達したとき老齢年金を受ける資格を取得するものというべく、その年額は原告主張の範囲内で四〇〇円に被保険者期間三四二箇月を乗じた一三万六、八〇〇円と認められる。

しかしながら、右金額はそれ自体スズコの生活費をまかなつて余剰あるものとは認めがたいから、これに関して同人の逸失利益を計上することは相当でないものというほかはない。

従つてこの点に関する原告らの主張は採用することができない。

(三)  スズコが本件事故によつて重傷を負い死に至つたことは当事者間に争いがないから、同人は精神的肉体的に多大の苦痛を蒙つたものというべく、次に認定すべき原告の慰藉料額をも勘案すると、スズコ自身の慰藉料としては一五〇万円が相当と認められる。

(四)  原告らはスズコの死により肉親として多大の精神的苦痛を蒙つたものというべきであつて、その慰藉料額は各七五万円が相当と認められる。

(五)  スズコが事故のため重傷を負い伊藤外科病院で治療を受け、六万二、八三八円の医療費を要したこと、及びこれを原告四郎助が負担支払つたこと、は成立に争いのない甲第一一号証及び同原告本人の供述によつてこれを認めることができる。

(六)  スズコの葬儀費として合計三一万〇、五八五円を原告四郎助が負担支払つたことは、〔証拠略〕によつてこれを認めることができる。同金額及び(五)の六万二、八三八円の合計三七万三、四二三円は原告四郎助が本件事故によつて蒙つた損害であるということができる。

そして(一)及び(三)の合計六一三万四、三九九円については、当事者間に争いのない相続分に応じ、原告四郎助が二〇四万四、八〇〇円、原告薫が四〇八万九、五九九円の割合でその賠償請求権を相続したものというべく、これに(四)の各七五万円宛を加算し、原告四郎助については更に(五)、(六)の三七万三、四二三円を加えると、結局原告四郎助の取得した損害賠償請求権の額は三一六万八、二二三円、原告薫の取得した分は四八三万九、五九九円となる。

四  これに対し自賠責保険から原告らに対し合計四九六万〇、三三八円が支払われたことは当事者間に争いがないから、相続分に応じて原告四郎助が一六五万三、四四六円、原告薫が三三〇万六、八九二円受領したものと認むべきである。右のほか、原告四郎助に対し被告今村から損害金の内入として一三万円の支払がなされたことについても当事者間に争いがない。

そうするとこれらを差引くと原告らの損害賠償請求権の額は、原告四郎助の分が一三八万四、七七七円、原告薫の分が一五三万二、七〇七円となる。

五  被告今村が任意その支払をしないため、やむなく原告らが本件の訴訟代理人である小出吉次弁護士に本件損害賠償請求訴訟の提起追行を委任したことは訴訟の経過自体によつて明らかで、原告らが同弁護士との間でその主張のような報酬契約をしていることは〔証拠略〕により肯定し得るところであり、右報酬額のうち本件において認容せらるべき賠償額や訴訟の難易等の諸事情にてらし客観的に相当と認められる部分は本件事故に基く原告らの損害であるということができる。

そしてその金額は原告四郎助の分が一四万円、原告薫の分が一六万円とするのが相当である。

六  それゆえ、被告今村は原告四郎助に対し四、の一三八万四、七七七円と右一四万円の合計一五二万四、七七七円、原告薫に対し四、の一五三万二、七〇七円と右一六万円の合計一六九万二、七〇七円、及び右各金額に対する本件事故の日ののちである昭和四六年六月二七日から各完済まで年五分の法定利率による遅延損害金の支払義務を負うものというべきである。

七  被告今村と被告久留米市農業協同組合との間に本件加害自動車を共済の目的とする原告主張の自動車共済契約が締結されている事実は当事者間に争いがない。従つて被告協同組合は被告今村に対し、被告今村が原告両名に本件事故に基く損害賠償義務を負担としたことによる損失を補填するため、被告今村の賠償すべき金額と同額の共済金を支払う義務を負うものというべきである。

被告らは、共済金の額は必ずしも賠償額と同一ではないと主張し、〔証拠略〕によると一定の場合に被告協同組合が共済金の全部又は一部の支払を免れ得るものとされていることが明らかであるが、そのことを定めた約款自体から明らかなとおり、かゝる免責は抗弁事由であつて、被告協同組合がその事由に該当することを具体的に指摘し立証することによつてはじめて斟酌される関係にあるから、そのような主張立証のない本件においては共済金の額は賠償額と同一であるとして取扱えば足りる。

被告らは、共済金の支払義務は、賠償額が認定するまでは発生しないか少くとも履行期が到来しない、とも主張する。

しかし〔証拠略〕によつても、被共済者が共済金の請求をすべき時期を損害が確定したときから一か月以内とするなど、損害が具体的金額によつて評価されていることを請求の要件とする趣旨の規定の存することは認められるが、別段損害賠償額が被告協同組合の承認を得た当事者間の和解契約又は被告協同組合が反射的効力を甘受せざるを得ない当事者間の民事判決等によつて確定されないかぎり共済金支払の請求をすることができないというような明文の約款はない。もともと被告協同組合としては損害賠償額として客観的に正当と認められる金額をこえて共済金を支払わせられることがなければそれで足りるわけであつて、共済の目的たる事故に基く損害の発生があれば客観的に正当と認められる損害額については直ちに共済金の支払義務が生ずると解してさしつかえなく、不当な金額を固執する共済金の請求に対してはその支払を拒んでも履行遅滞の責を負わないことは当然であるから、共済金の請求につき前記のような和解又は判決による損害額の確定を要件とする必要は全くないこととなる。従つて右主張もこれを採用することができない。

そうすると、被告今村が原告らに対し前認定の損害を賠償するに十分な資力を有しないことは〔証拠略〕によりこれを肯定し得るから、原告らは被告今村に対する賠償請求権に基き同被告に代位して、被告協同組合に対して被告今村に対する賠償請求権の額と同一の共済金の支払を求め得るものというべきである。

八  よつて被告らに対し六、記載の金額の各自支払を求める部分の原告らの請求は理由があるから正当としてこれを認容し、右限度をこえる部分を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 蓑田速夫)

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